科学史 (9) 近代:古典物理学の限界 クルックス管以降

帝国主義の浸透によって工業は統一化と大規模化による大量生産を余儀なくされた。
発電所が建設され、重工業が蒸気機関によるものから電動機関によるものへと変化していった。
冶金、メッキ、ガス類の生産は電気なくてはなしえないものである。
科学技術も資本投入を受けて著しく進歩し、理論と応用、そして各種専門分野へと細分化されていった。
豊富な電力を人類は電灯や電信通信に応用した。
分光学が発展した。最終的に太陽のスペクトルは10000以上に分けられ、
暗線の波長が記録されていった。
また分光学によって遠くの恒星の情報も得られるようになった。
真空ポンプの性能が上がり、真空にしたガラス管に電気を流すと不思議な現象が起こることに科学者は魅せられる。
陰極線、X線、放射線という目に見えない光線たち。
スペクトル線の波長の謎と温度のみに依存する黒体放射の謎は古典物理学の限界を感じさせた。
特殊相対性理論につながるいくつかの重要な物理的事象が発見されており、
相対性理論はアインシュタインがいなくてもいずれ発見されただろうことは伺える。
生物学では細胞の内部構造が明らかにされ、病気が病原菌によって引き起こされることが証明される。

化学

ドミトリ・メンデレーエフ 元素の周期表 1869

元素を重さ順に並べたら性質の似た元素が並ぶ。
発表当初は重さ順とかwなら次はアルファベット順にでも並べますかとバカにされた。
しかしメンデレーエフは未発見であろう元素を空欄にしてその存在を予言した。
その後、予言通りの元素が発見されることによって一躍注目されることになる。
ノーベル化学賞の選考ではモアッサンに1票差で破れて、翌年死去のため受賞はならなかった。

ヨハネス・ファン・デル・ワールス

    ファンデルワールス力

電荷を持たない分子同士に働く引力

    ファンデルワールスの状態方程式 1873

\( \displaystyle (P+\frac{an^2}{V^2})(V-bn)=nRT \)

a,bは気体ごとに定まるパラメーター

メンデレーエフが予言したガリウムが発見される 1875

クルックス 同じ元素でも原子量の異なる原子が存在して化学者は平均を原子量として測定していると推測 1886

アンリ・モアッサン フッ素の単離 1886

フッ化水素の単体は電気を通さないし、水が混入するとフッ素ではなく酸素が電気分解で生成されてしまう。
そこでフッ化水素にフッ化カリウムを溶かし、
-50℃の低温で電気分解を行い蛍石の容器で捕集するなど工夫したが片眼を失明する。

ルードウィッヒ・モンド ニッケルカルボニルの発見 1890

アンモニアソーダ法の工場のニッケル配管が度々穴が開く問題の調査から、

ニッケルと一酸化炭素が反応する。Ni(CO)4

ウィリアム・ラムゼー、ジョン・ウィリアム・ストラット(レイリー卿)

アルゴンの発見 1894

アンモニアから作った窒素と空気から酸素と二酸化炭素と水蒸気を除いたものに差異があることから。

空気からヘリウムを分離 1895

ウィリアム・ラムゼー

ネオン、クリプトン、キセノンの発見 1898

メンデレーエフの周期表に当てはまらない元素がたくさん同時期に発見されたが、
これらは希ガスという新たなグループとすれば収まりが良いことがわかった。

ピエール・キュリー、マリ・キュリー

ラジウムの発見 1898

ウランより強い放射能を持つ鉱石の研究から。

生物学・医学

ロベルト・コッホ 炭疽菌の培養で病原菌の発見 1876

ウォーリントン 微生物が地中のアンモニア塩を硝酸塩や亜硝酸塩に変換して植物に吸収されうることを示す 1878

パスツール 弱毒した炭疽菌を羊に注射しておくと生きた炭疽菌を注射しても病気にならない(ワクチン)1881

フィンレー 蚊が黄熱病を媒介することを示唆 1881

フレミング 染色体と有糸分裂 1882

コッホ 結核菌の同定 1882 コレラ菌の発見 1883

ゴルジ ゴルジ体の発見 1883

グラム 細菌を二種類に同定する色素 1884

いわゆるグラム染色。

ヴァン・ベネ 生物が種ごとに定まった染色体数を持つことを発見 1887

ドミトリー・イワノフスキー タバコモザイク病の病原性が濾過器を通しても失われない 1892

細胞よりも大幅に小さい病原体(ウイルス)が存在することを示唆。

マラリア原虫の発見 1897

光学・放射・天文学

ウィリアム・クルックス クルックス管 1869

ガイスラー管よりさらに真空度を上げたもの。

ヴィルヘルム・ヒットルフ 陰極線の発見 1869

クルックス管の陰極から未知のビームが出ている。電場や磁場によって曲げられる。

レイリー散乱 1871

光の波長よりも小さな粒子によって起こる散乱。
レイリー卿が研究した。
短波長ほど散乱されやすく、日中の空は散乱光が目に多く入るため青く見える。

フィリップ・レーナルト レーナルト管

クルックス管のガラスに小さな金属箔の窓(レーナルトの窓)を設置し、
圧力差に耐えられる程度に厚いが陰極線が通過する程度に薄いものにすることで
陰極線を外部に取り出して研究しやすくした。

ヨハン・ヤコブ・バルマー バルマー系列 1885

水素原子の可視光領域の4つの輝線が以下の数式に従うことを発見。

\( \displaystyle \lambda=f(\frac{n^2}{n^2-4}) \)
\( f=364.56{\rm nm}, n=3, 4, 5, \dots \)

フォーゲル 分光連星を発見 1889

分光連星とは1つの恒星に見えるが、スペクトルを観測することで
2つ以上の恒星からなっていることがわかる天体のことである。

ヨハネス・リュードベリ リュードベリの式 1890

あらゆる原子のスペクトルはリュードベリ定数\(R_{\infty}\)と
原子ごとに定まる定数\(a, b\)と整数列\(m, n\)によって定められる。

\( \displaystyle \frac{1}{\lambda}=R_{\infty}(\frac{1}{(m+a)^2} – \frac{1}{(n+b)^2}) \)

バルマーの発見を一般化することに成功。

チャールズ・ウィルソン 霧箱の発明 1895

ウィルソンは雲を作りたいという夢を持っていて過飽和した霧の箱を作った。
この霧箱は目に見えない放射線などの荷電粒子が通ると軌跡に雲が生じて可視化される。
このことは宇宙線や素粒子の研究発展に大きく貢献したためノーベル賞を受賞した。

ヴィルヘルム・レントゲン X線の発見 1895

陰極線の研究中にガラス管から放射される透過力の高い放射を仮の名前としてX線と名付けた。
X線は金属などの重い物質には遮られ、手を通して写真乾板に写すと骨だけの画像が得られた。
レントゲン写真に今もその名を残すこの功績は初代ノーベル物理学賞となった。

ヴィルヘルム・ヴィーン ヴィーンの放射法則 1896

ヴィーンは黒体放射の温度\(T\)に対応する放射強度を表す数式を導出したかった。

\( \displaystyle \frac{c_1}{\lambda^5}e^{-\frac{c_2}{\lambda T}} \)

長波長領域ではうまく近似できなかったが、
後にプランクが全領域で観測と一致する式を導出する。

アンリ・ベクレル 放射線の発見:ウランが写真乾板を露光させる 1896

ウラン鉱石を黒い紙で包んでも感光したことから紙を透過する光線が放出されている。

ジョセフ・ジョン・トムソン 陰極線から電子の発見 1897

陰極線を構成するものが水素原子の1/1000程度で負の電荷を帯びた粒子:電子であると結論づけた。
また原子自体が中性であり、電子は原子から飛び出したとするなら、
原子は正電荷の中に電子が散りばめられている構造になっているという原子モデルを提唱した。

波動・熱力学・低温物理・電磁気学・重力

ルートヴィッヒ・ボルツマン

熱力学の法則を力学的に証明したい。

ボルツマン方程式: 統計力学: 熱力学の第二法則 1872

ボルツマンの関係式 1877

統計力学において系の状態数を\( W\)とするとエントロピー\(S\)は\(k\)をボルツマン定数として、
\( \displaystyle S=k \log W \)

ピクテ、カイエテ 酸素と窒素の液化 1877頃

ジュールトムソン効果を使って空気を冷却した。

ホール ホール効果 1879

電流が流れている導体や半導体に電流と垂直な向きに磁場をかけると、
電流とも磁場とも垂直な向きに電位差が生じる。

キュリー ピエゾ 圧電効果 1880

水晶に圧力を加えると起電力が生じる。
物理的な力を電気のエネルギーにできるというより、
振動のような細かな力の変化を電圧の変化で検知するという目的の応用が多い。
逆に電気の力を圧力に変えることもできる。

ウィラード・ギブズ

ギブズ自由エネルギ 1878

\( \displaystyle エンタルピー:H, エントロピー:Sとして \)

\( \displaystyle F=H-TS=U-TS+pV \)

ベクトル解析 1880

ギブズ-ヘルムホルツの式 1882

\( \displaystyle \frac{\partial\frac{G}{T}}{\partial T}_p = -\frac{H}{T^2} \)

ユーイング 地震記録による2つの波形を縦波と横波であると考える 1881

マイケルソン 干渉計を作成 1881

ハーフミラーを用いて単一光源で光路差を作って干渉が生じるようにしたもの。

レイノルズ数 1883

シュテファン=ボルツマンの法則: 黒体放射の理論 1884

黒体放射のエネルギーは熱力学温度の4乗に比例する。

\( \displaystyle I= \sigma T^4 \)

エトヴェシュ・ロラーンド

重力と慣性力の等価性(エトヴェシュの実験)  1885

レイリー波 1885

個体の表面を伝わる弾性波の一種。
地球の表面を伝わる地震波の研究から。

ヤコブス・ヘンリクス・ファント・ホッフ

ファントホッフの法則 浸透圧 1886

\( \displaystyle \Pi V = nRT \)

アルバート・マイケルソン、エドワード・モーリー

マイケルソン・モーレーの実験 1887

光はエーテルという媒質の中を伝わるとされた当時、
マイケルソンとモーリーは地球が自転や公転によってエーテルの風を受けるならば
その風向きの変化が干渉縞に現れるはずだと考えた。
しかし結果は光速はどのように測定しても常に等しいというものであった。

エルンスト・マッハ

超音速の衝撃波 1887

大気中での音速を表す単位に「マッハ」の名が残る。

ハインリヒ・ヘルツ

電磁波の送信と受信 1887

2つの金属双球を距離を隔てて置いて、片方に火花放電を起こすと、もう片方でも火花放電が起こる。
マクスウェルが提唱した電場と磁場の変動が空間を並のように伝わるという電磁波の存在を実証した。

光電効果の発見 1887

金属の表面に光を当てると電子が飛び出す現象。

フリードリッヒ・パッシェン

パッシェンの法則 1889

放電のおこる電圧を示した実験則。

ジョージ・フィッツジェラルド

高速で移動する物体は移動方向に長さが縮む仮説:ローレンツ収縮仮説 1889

マイケルソン・モーリーの実験結果を矛盾なく説明するために、
ローレンツは高速に運動する物体は長さが縮むと考えた。

ニコラ・テスラ

テスラコイル 1891

ジェイムズ・デュワー

デュワー瓶 1892

二重壁で中央を真空構造にした瓶で高い断熱性能がある。魔法瓶。

水素の液化 1895

まずジュール=トムソン効果によって液体酸素を作り、
そこに水素を通じて冷やしてから
さらにジュール=トムソン効果で冷却して液体水素を得る。

ピエール・キュリー

キュリーの原理 1894

ある実験結果に対称性が見られるとき、
原因となったもの自体に対称性が含まれている。

キュリー温度

磁石を加熱するとある温度で磁石としての性質を失う。
このように強磁性体が常磁性体に変化する転移温度をキュリー温度という。

ジョン・タウンゼント タウンゼント放電 1898

ヘンドリック・ローレンツ ローレンツ変換 1899

技術

アレクサンダー・グラハム・ベル 電話機の発明 1875

キログラム原器 1875

メートル法に従って1キログラムは水1リットルの質量と定義されたが、
この定義では曖昧であった。
そのため白金とイリジウムで1キログラムの合金を複数作り、
各国に配布してこれを1キログラムの基準とした。

液体アンモニアを冷媒にした冷却装置 1876

トーマス・エジソン

    蓄音機の実用化 1877

    竹のフィラメントを用いた白熱電球 1879

最初の水力発電所 1882

石油から硫黄を取り除く方法の発明 1887

エッフェル塔 1889

ガブリエル・リップマン リップマンのカラー写真 1891

フェルディナント・ブラウン ブラウン管、オシロスコープ 1897