三体ⅠⅡⅢ 感想(1) 三体Ⅰ

三体ⅠⅡⅢと5巻を読破した。
そもそも三体を手にとった理由は、
中国人がアジア人初のSFのすごい賞を取ったという触れ込みがあったから。
しかもⅡが出たのを契機にしてⅠとⅡの計3巻をまとめ買いした。
かなり面白く引き込まれる内容だったのでⅢが楽しみだったのだが、
期待以上の収束であったので感想を書いていきたい。
なおⅠから順に書いていくが、
Ⅲまで読了済みを前提にするのでご容赦いただきたい。

三体Ⅰ

第一部 沈黙の春

三体Ⅰは人類と三体星人との出会いの物語で、全体がプロローグである。
その序章、つまりはプロローグのプロローグでは、
「お前の理論は西側諸国の科学にかぶれとる」と、とある物理学者が嬲り殺しに遭う。
父親が眼前で亡くなったのをじっと見つめるしかなかった14歳の少女が
物理学者を目指すのも運命なのである。
中国の文化大革命を表現しており、
いかにも中国人が書いたというイメージを植え付けることに成功している。
表題の沈黙の春といえばレイチェル・カーソン。
なぜこの本を選んだかといえば、作中の1960年代で有名な科学の本といえばこれだろうか。
人類の傲慢な環境破壊をテーマにしているというのも関係あるかな。
彼女=葉文潔は当然公安にマークされており、はめられて辺境の基地に飛ばされることになる。
軟禁状態だが優秀な彼女は基地で仕事に精を出す。ここでプロローグ終わり。
初見では文潔は主人公ではなく背景としか感じなかったので、あまりこの節は頭に入ってこなかった。

第二部 三体

汪淼が登場し、彼が主人公となってSF色が高まってくる。私も本を捲る手に力が入った。
汪淼は軍に連れ去られたと思ったら要件はここ最近著名な物理学者が連続自殺を遂げている。
「物理学は存在しない」という謎の遺書を遺して。
<科学フロンティア>が怪しいから潜入調査してくれというお願いだった。
これは後から読み返して知るが、ここの死亡者リストの末尾にあった楊冬というのが、
葉文潔の娘というタイムラインである。面倒くさいと思った汪淼は一旦依頼を断り、
楊冬の恋人である丁儀に事情を聞く。
「ビリヤードの黒球に白球を同じように当てたら、1回目はポケットに、2回目は脇にそれて、……、5回目は亜光速で吹っ飛んでいった」みたいなことが起こったと。
これは明らかに高エネルギー粒子加速器での実験結果を意味していてと想像していたら直後にその記述があった。
物理学には法則が存在しないように見える。
汪淼はこれを何者かが科学を殺していると捉えたのは鋭い洞察だなと。
その直後汪淼は何者かの攻撃を受ける。
自分が撮った白黒銀塩写真を現像してみると謎の数字列が映っているのであった。
しかもカウントダウンのように減っている数字。
カメラが悪いのかを検証するために妻と子にも適当に撮らせて、そのあと自分も撮った後に再度現像する。
すると自分が撮影したものだけ数字が映っている。この対照実験やるのは科学者チックで好みの描写。
この謎の数字について頼れるのは<科学フロンティア>だけだと、恐る恐る門を叩いたら、
ナノマテリアルの研究を中止せよとの一点張り。理由を聞いても答えてくれない。
しまいには眼球にカウントダウンが現れるようになり、
観念した汪淼は研究システムをメンテナンスと称して一時休止したら止まった。
完全にホラーか精神病かですな。
汪淼は「手品だろう。そんなものでは私は納得させられない」と、
ミスターサタンばりに<科学フロンティア>に詰め寄るが、
楊冬のようになりかねんが挑戦を受けるか?と返される。
恐る恐る聞くと宇宙背景放射を観測できる場所に行けと。
宇宙背景放射なんてワードが出てくるのか。あのウィルソンが発見した?と驚いていたら、
その後の汪淼も職員に宇宙背景放射のことを読者説明的に語ってたので笑いました。
宇宙背景放射すらも操れる敵には超人類的なテクノロジーがあってお手上げだと思いました。
見返してみると、この攻撃は宇宙全体の背景放射をいじったのではなく、
地球近傍に入ってくる宇宙背景放射だけを操作したのであるが、
いずれにしても超人類的なテクノロジーではあると。

VR三体

三体Ⅰで最も面白いのはVRゲーム三体の描写だろう。
汪淼が謎の攻撃を受けて疲弊しているところの息抜きとして攻略パートが小分けに挟まっているのだが、
このVRゲームは全身装着型のVスーツでのみプレイ可能で痛覚や寒暖まで再現できるという。
しかし、ゲーム内容はひどく難解で理不尽な死で苦痛を味わうので、
こんなフルダイブゲームがあったら現実よりクソゲーだと炎上しそうであるが。
三体の世界には乱紀と恒紀がある。乱紀は灼熱と極寒の地獄で太陽の動きが読めない。
恒紀は安定した気候で太陽の動きが規則的。
この世界の住人は乱紀には脱水化してコンパクトな乾燥体になって厳しい気候に耐える。
恒紀が来ると脱水化しなかった王族たちによって民の再水化が行われて文明の針を進める。
2つの飛星は恒紀の知らせ。3つの 飛星は極寒の死滅のお告げ。
さぁ、この世界の太陽の法則性を導いてみよと。
タイトルの三体は三体問題の三体という風に聞いていたので、
ああ乱紀というのは三体問題のカオスっぷりなのかなとなんとなく想像はついた。
でも脱水生命という世界観がシュールで面白いと。
ゲームオーバー時に「文明の種子はまだ残っています。それはいつかふたたび……」
という文言が出る。文明の種子という表現が匂わせぶりである。
記憶さえ残っていれば次の文明へと繋ぐことができる。
あとこのゲーム、科学の偉人が出てくる。大体の文明の進み具合に合わせた人物が登場するのだが、
ニュートンのあたりの世界観は笑いました。あいつが「俺のほうが先に微積分を見つけた」と罵倒して走り去った。
これを見て汪淼が「ならそいつはライプニッツだな」と返すのは科学史をわかっている証拠。
そこに登場するのがフォン・ノイマン。ん?ノイマン早くね?そうなのである。
ノイマンは時期的にはもう少し後の時代の人物。
彼が何を言うのかと思ったら「ニュートン君の方程式は複雑すぎて世界中の数学者を集めても計算が終わらないよ」と。
はは~ん、ここでコンピュータによる数値計算なのですな、わかります。と先読みするのだが、
次に指示したのが3000万人を集めろと。そしてまず3人でデモンストレーションをすると。
二人が前で一人が後ろの逆三角形に配置して、前の二人が二人とも黒の旗を上げたら後ろの人が黒の旗を上げる。
前の二人が両方白の旗、もしくはどちらかが白の旗を上げたら後ろの人は白の旗を上げる。
こ、これは……AND回路。まさかの3000万人の中国人による人力コンピュータである。
「計算陣形(コンピュータ・フォーメーション)!」とか爆笑しかないでしょ。
汪淼はやがてゲームをクリアし、地球三体教会(ETO)の集会に参加する権利を得る。
オフ会ではゲームの世界は現実に存在すると知らされた。三体艦隊は現実に地球に向かってきていると。
どうしてそうなった?三体星人は友好的なの?そんな疑問が芽生える。

紅岸

文潔は紅岸基地で飼い殺しにされていたが、木星の電磁波バーストが太陽表面で増幅されたことから、
太陽は電磁波増幅装置として使えるのではという仮説を立てる。
Ⅰ型文明は惑星に降り注ぐ全エネルギーを使える文明。
Ⅱ型文明は恒星系全体のエネルギーを使える文明。
太陽の増幅を使えばⅡ型文明相当のエネルギーでメッセージを送信できる。
送信した瞬間はその周波数で太陽は天の川銀河で最も明るく輝いたという表現が好き。
そして7年ほどたった後にまさかの返答が来た。
しかも送信したメッセージと同じ言語とプロトコルで。
この時点で相手の科学力が相当なものであることが伺い知れるとともに、
相手は太陽系のお隣さんアルファ・ケンタウリであることが確定する。光速は有限だからね。
内容は驚きの
「応答するな!応答するな!応答するな!
現時点では直線上でしか絞られないが、応答したら位置が特定されて侵略されるぞ」
この衝撃の返答にも関わらず、人類社会に絶望していた文潔は
「人類は自分で自分の問題を解決できないから侵略しに来て」と送信してしまった。
とんでもないことを一人でしでかしてしまったかのような文潔だが、
自身が文潔ならどうだろうか。
やはり人類は愚かだから滅びの引き金を引かねばならないとなるのではないか。

第三部 人類の落日

偉大なる三体艦隊は既に出発した。あと450年後に地球に到達する。
ETOとは地球で虐げられてきた人々による三体世界を信仰する団体で、
VRゲーム三体はETOの布教活動の一環だったのだ。
なるほど、三体星人は侵略の足がかりとして人類内の内ゲバ勢力を利用しているのだな。
ETOはいわば狂人で人類の敵。
三体星人に地球を滅ぼしてもらおうとする降臨派、
三体人に地球人を矯正してもらおうとする救済派、
三体星人との最終戦争に勝って生き残る生存派といった派閥が生まれる。
降臨派が三体星人との交信を独占して、何らかのメッセージを受け取ってからは
一切の通信が途絶えてしまう。
ここで人類は国を超えた軍を結成し、秘密をひた隠しにする降臨派から情報の奪取を試みていることを知る。
なるほど汪淼が奔走していた(させられてた)のは人類が三体世界に対抗するためだったのか。
降臨派の船に情報が入ったサーバーがあるが、襲撃したらディスクごと爆破されるかもしれない。
よって速やかに内部の人間だけを無力化する必要がある。
どんなマジックで実現するんだろうと思っていたら、
パナマ運河を通過中にナノマテリアルのワイヤーを張っておいて乗員ごとスライスするというものだ。
ここの船がスライスされる描写が見事で、映画とかだと映えそう。
ぜひ情景を思い浮かべながら堪能していただきたい。
そこまでして得られた情報はというと三体世界は地球に向けて2個の陽子を送ったというものだ。
たった2個の陽子では髪の毛一本動かせないが何ができる。

智子(ソフォン)

陽子を惑星サイズの二次元平面に展開して精密回路を書き込む。それを十一次元に移行させて元の陽子サイズに戻す。
こうすることで陽子サイズのスーパーコンピューター:智子の完成だ。
この世界は十一次元から成っていて、三次元以外の次元は小さく折りたたまれているというのはM理論ではあるが、
いきなりトンデモ兵器ぶちこんできました。
三体艦隊はせいぜい光速の10%しか出せないが、智子なら亜光速まで加速できる。
智子の目的は地球の加速器などの先端物理学を無茶苦茶にして科学の進歩を止めることだ。
三体艦隊が到着する450年の間に人類の急速な科学の進歩によって科学力が逆転することを恐れたのだ。
そして地球の二体の智子と三体世界の二体の智子は量子もつれにあるから地球の情報を瞬時に三体世界に届けられる。
もう何でもありだな。日本なら智子(ともこ)タソハァハァとか言って擬人化されると思ったら三体Ⅲ(死神永生)で実現した。
降臨派からのデータ解析会議で我々は既に智子たちに監視されていると発言した瞬間、
参加者の眼球に「おまえたちは虫けらだ」と映る。かつて汪淼がカウントダウンを映されたように。
ハハハ思いっきり敵意丸出しではないか。しかも情報戦でも勝てないし、科学技術の進歩も望めない。
人類は終末の日を待つだけ。

三体Ⅰ (結)

絶望の中、第一幕が閉じる。
三体星人は人類の中で爪弾きにされた連中とうまくコネクションを貼り、
人類侵略を確固たるものとする基礎を築いた。
彼らも彼らなりに三体問題によるカオス系によって母星が引き裂かれるほどの天変地異が日常なのを何とかするために
外宇宙へ漕ぎ出そうと足掻いているのだ。
地球人を虫けらと罵った三体星人もまた、宇宙の生命体の中では、虫けらにすぎない。
太陽系と三体系。この4光年ほどのエリアにまたがる宇宙戦争の火蓋が切って落とされた。
果たして人類の運命は如何に。三体Ⅱへと続く。