藤井聡太四段~二冠までのフィクション超えな将棋界

「りゅうおうのおしごと」とは

将棋をベースにしたラブコメで、
実際の将棋界の珍エピソードを誇張した半フィクションや、
2ちゃんねるの将棋板のネタを盛り込んだ昨今のラノベらしい文体で書かれる。
作者は白鳥士郎「のうりん」の著者でもある。

対局シーンは実在の棋譜をベースにした監修がなされており、
見る人から見れば、これは羽生さんのあの対局だなとわかってしまう。
光速の寄せの異名を持つ棋士から連続王手されて負けたかと思いきや逃れていた→谷川VS羽生
三連続限定合(トリプルルッツ)→久保VS羽生
この棋譜選定だけ見ても深浦さん以上に将棋愛が伝わってくる。んっ~♥

このラノベの主人公は中学生棋士で高校生で竜王のタイトルを取って
女子小学生の弟子をとるというストーリーだが、
そんな設定ねーよ。
弟子はともかく主人公が超人すぎる。
羽生さんをモデルにしてももうちょっと控えめだろという意見が本筋であった。
しかし、現実がフィクションを追い越すということが起きているようだ。

藤井聡太最年少四段昇段なるか

藤井聡太の名は奨励会員ながら詰将棋解答選手権優勝ということで轟いていた。
さらには中学生棋士はほぼ確定だが三段リーグ一期抜けなるかということで注目されていた。
その最終日、藤井聡太は自力の目があった。
そして初戦負けたがライバルも負けたため自力継続。
続く二戦目に見事勝利して四段昇段を決めた。
これによって加藤一二三九段の持つ最年少プロ入り記録を塗り替えることとなった。
一期抜けできなければ記録更新ならずなので既に漫画的展開である。
同期昇段は大橋貴洸で、彼も数年に一度クラスの優秀な成績を残しており、
藤井聡太の影に隠れた大型新人である。
といっても奇抜なスーツなどで神吉宏充の系列を連想させる。

藤井聡太四段 VS 加藤一二三九段

藤井聡太四段のデビュー戦は加藤一二三九段に決まった。
竜王戦での対決はやや作為的な気もするが、それも将棋界。
年齢差62歳での対局、そして加藤一二三九段は
19世紀生まれ、20世紀生まれ、21世紀生まれの棋士と対局した唯一の棋士となった。
将棋はガッチリと組み合う純文学な相矢倉で昭和の加藤に相応しい戦型となり、
中盤で鋭い攻めを見せた藤井四段が押し切ってデビュー戦は白星発進となった。
この時点ではまだ若々しさすら解き放っていなかったが……。

藤井聡太四段デビューから29連勝

10連勝ぐらいの時期は可愛かったのだが、
NHK杯将棋トーナメントが異例の生放送となって、
千田翔太六段の一瞬の隙をついて勝勢にしたあたりで空気が変わった。
上位棋士を撃破したことで強さがまじまじと明示化されたからだ。

そして中継されることも多くなり、
20連勝を懸けた澤田真吾六段戦で必至を掛けられいよいよ連勝ストップかと思われた矢先、
藤井四段の王手に対応を誤り逆転勝利は台本があるかのよう。

その後も中継での解説棋士が唸るような勝利で規格外の強さを見せつける。
中でも都成竜馬四段戦での玉での顔面受けの中盤からの一気の踏み込み、
相手の反撃を完全に見切っての寄せは圧巻だった。

29連勝目となる増田康宏四段は藤井四段に次ぐ二番目に若い棋士。
中盤やや不利かなと思われた局面から角と桂馬の波状攻撃で一気に寄せ切った。
これには谷川九段も感嘆するしかなかった。

そして30連勝を懸けた竜王戦本戦トーナメントは佐々木勇気五段。
通称青いのと呼ばれる彼も期待の新鋭で前述の増田戦も偵察に訪れるほど意気込んでいた。
相掛かりの最新研究をぶつけて有利となり、勝利をもぎ取った。
藤井聡太四段の連勝は竜王戦で始まり、竜王戦で終わった。
佐々木勇気は藤井聡太の連勝を止めた男として歴史に名を刻むこととなった。

加藤一二三九段引退

神武以来(じんむこのかた)の天才と呼ばれたひふみん。
最年少A級+最年少A級陥落
長考一分将棋の神様
タイトル戦で滝(人工の滝)を止めた伝説。
強打で盤が割れた。
ストーブエアコンの温度調整合戦。
代名詞となっているうな重
あと何分?
棒銀一筋。
念願の名人位獲得の詰みが見えてウヒョー
羽生の△5二銀を喰らった男
羽生VS中川の解説で頓死ですね。
将棋vtuberひふみちゃん
逸話には事欠かない。

長く現役を続けたことによる対局数2505、敗数1180は空前絶後。
引退後もバラエティアイドルとして活躍中。
羽生善治とともに藤井聡太を大天才と尊敬してその凄さを民衆に伝えている。

横歩取りの衰退と角換わりの隆盛

横歩取りで天下を取った男として佐藤天彦名人がいた。
名人戦での羽生・森内政権を倒したのは彼であるが、
叡王戦でも羽生を降し、叡王の座に就きPonanzaと戦った。
結果は2連敗ではあったが準備不足ではなく、
名人としての実力を存分に出したように見えた。

しかし横歩取りで名人になったものの、
この頃から横歩取りには青野流で先手十分との認識が広まり、
勇気流は流行らなかったが有力という見方で後手が横歩取りを避けるようになった。

増田俊樹四段の「矢倉は終わった」発言もあったが、
雁木も思ったより流行らずに脇システムや土井矢倉に戻りつつある。
相掛かりは相変わらずマニア向け。
振り飛車は始まってすらいない。

そんな訳で棋士が殺到康光したのが角換わり。
とりわけNHK杯決勝の千田翔太VS村山慈明で千田五段が見せた
角換わり腰掛け銀△6二金型は升田幸三賞にもなった。
従来の△5二金型を徐々に置き換えて主流の形を交代させていった様は
新時代の幕開けを思わせた。
今や下段飛車で金が飛車の1マス上、2マス隣、桂跳ねという形自体が優秀とされて
いろんな戦型に逆輸入されている。

Ponanzaがelmoに敗れる

世界コンピュータ将棋選手権で開発者の山本一成さんが
Ponanza Chainerは大人気ないぐらいのマシンのディープラーニングクラスタで、
これまで見たことないような強さの将棋を見せますよと大会前に宣言していた。
確かにPonanzaは例年他ソフトを寄せ付けない強さで優勝していた。
そこにこのマシンスペックなら鬼に金棒であるから無理もない。
だが結果はelmoに惨敗。
予選でも決勝でも破れて2位に甘んじた。

以下の局面はPonanza VS elmoの決勝戦の分岐点となった△1七香まで

2020年の水匠2で検討すると3億ノードあたりで先手有利と判断する。
先手の歩1枚を後手に渡すと互角と判断する程度の僅かな差。
2020年のコンピュータ将棋で検討すると、香打を思いとどまって、
△7六飛→△2六飛とすれば後手もやれるとの評価のようだ。

elmoは後にelmo囲いという船囲いから▲7九金とする構想が優秀で一躍名を知られることとなる。
これによって対振りはもっぱら穴熊か銀漢という時代から急戦でも有望とみなされるようになった。

Abema炎の7番勝負

ニコニコ動画が衰退してAbemaに移りつつあった時折、
Abema将棋を盛り上げようと企画したら大失敗。
出てきた棋士がこれ。
増田康宏、永瀬拓矢、斎藤慎太郎、中村太地、深浦康市、佐藤康光、羽生善治。
強すぎてとても勝てない。
藤井ブームに乗せられた層がメインターゲットのはずなので、
つまり善戦前提(としか思えないし、実際に2勝程度しかできないはず)
まずくはないけど、体験価値としては……

となるはずが6勝1敗ってどういうことだよ。
若手に有利な早指しとはいえ、規格外の強さを見せつけてくれる。

朝日杯将棋オープン戦優勝

一次予選、二次予選と勝ち上がってきたものの流石に本線は厳しいやろと思われていた。
というのもA級などの上位棋士相手には他の棋戦で負けることが多かったためだ。
ところが佐藤天彦羽生善治を撃破して決勝に臨むと、
広瀬章人をあっさりと降し優勝。
五段昇段後わずか16日で、全棋士参加棋戦での優勝により六段昇段となった。

羽生善治永世七冠達成

タイトルを取れる棋士はほんの一握り。
永世称号を持つ棋士というのは数えるほどしかいない。
羽生さんはその永世称号を6つも持っている。
それだけで凄さの次元が違うというのがおわかりになろう。

そんな羽生が唯一持っていない永世称号が竜王(叡王は最近できたので除く)。
そして唯一の永世竜王を持っているのが渡辺明竜王。
羽生さんの指し手は終始鋭く踏み込む若々しいもので、
渡辺明にリードを許さぬままシリーズを圧倒した。

因縁の相手だからこその竜王奪取は感慨深い。
タイトル通算99期にして永世七冠達成。
そんなのラノベでも却下されそうな脚本である。

森内九段宣言フリークラス

てっきり谷川浩司九段と同じくB1で指すのかと思っていました。
それか理事の仕事に専念するのか。
「あ、フリークラスで指します」
森内俊之永世名人がA級陥落が決まると宣言した。

それが第3回Abema将棋トーナメントでは出場棋士でトップの個人成績となり、
レジェンドチーム(佐藤康光・谷川浩司・森内俊之)ベスト4入りの立役者となった。
期待の新弟子:野原未蘭英春流の使い手。
竹俣紅さんはカズレーザーにお任せしましょう。
今は世界一将棋の強いYouTuberとして活躍中。
流れは完全に森内!

藤井聡太将棋大賞記録部門四冠

記録四部門とは最多勝利、最多対局、最多勝率、連勝賞のこと。
四冠独占は古の内藤國雄と羽生善治の4度達成(これも異次元だが)のみで、
藤井聡太四段は初っ端から四冠独占を達成した。
デビュー29連勝もあったとはいえ、これはとんでもない記録だなと。

NNUE評価関数の誕生

2018年の世界コンピュータ将棋選手権にて、
Tanukiチームの那須さんがNNUE評価関数を実装した。
残念ながら優勝はならなかったが、
その優秀性は認められKPPT評価関数に変わってコンピュータ将棋界を席巻した。

その後2020年7月にstockfishにNNUEが移植された。
長らく将棋ソフトはチェスのstockfishを手本にしてきた歴史があったが、
逆に将棋ソフトでの改善が本家のレーティング上昇に貢献した歴史的な瞬間となった。
全米がNNUEに沸いた?
優秀な開発陣によってチェスでの知見がまた将棋に還流することもあるかも。

羽生無冠に

羽生が前竜王と呼ばせるわけないというのは谷川九段を尊敬していることから予想されること。
そんなわけで羽生さんがうん十年ぶりにただの九段となった。
思えば平成という時代は羽生に始まり、羽生で終わった。
そのぐらい長かったのだ。羽生時代は。

その後の羽生はタイトル戦登場なし、全棋士参加棋戦決勝出場なし、○○リーグ参加連続が途切れる、
など棋界の第一人者としての輝きを失っていく。

あと1つ、あと1つでタイトル通算100期なんだ。
それが羽生善治最後の宿題として残っている。

升田幸三賞

藤井聡太の対局はほぼAbemaで中継されるようになり、
石田直裕とのその対局も中継されていた。
解説は千田翔太七段である。
チダンザと称され、番組内でもそのネタを用いて解説が進んでいた。

場面は中盤の折衝で飛んできた▲6三歩。
この歩は△6二金型の角換わりでは搬出筋で、
取ると飛車金両取りの角or銀打ちが入る。
場合によっては▲6三銀と打ち込む手すらある。
解説の千田七段もここは金をどっちに逃げるかで
ここから長くなるので風呂に行くなら今のうちですよと言っていた。

が、コレがフラグで藤井六段が△同金と応じたので大騒ぎ。
千田七段が電王盤で検討していると
これは▲7二銀には△8六飛と走られてアウトなようですね、
飛車を渡しても詰めろが掛からないことを見越して踏み込んで来るんですねと。
その後は△7七同飛成まで一直線に。

あまりにも鮮やかでセンセーショナルな寄せは見るものを圧倒した。

B級2組への昇給ならず

藤井聡太はC級1組にて8連勝と師匠の杉本昌隆八段とともにワンツーだった。
そして9戦目は共に昇級を争うライバル船江恒平、近藤誠也との直接対決。
両者勝てば最終戦を待たずして師弟アベック昇級が決定する。
しかし両者共に敗れたため立場が入れ替わり、藤井聡太の自力昇級の目は消えた。
と同時にデビューから順位戦51連勝で名人挑戦というロマンは消えた。
藤井は最終戦勝ったものの頭ハネで昇級ならずとなった。

3年連続勝率8割達成

勝率8割というのは尋常ではない。
七冠時代の羽生さんか期待の新人がデビュー付近に達成するしかできない数字だ。
新人でも勝ちすぎると上のクラスの棋士と当たるようになるので、
勝率はトップ棋士でも7割というのが通例。
それが未だに8割超えを維持している。
朝日杯も連覇して、三連覇できなかったことがニュースになるほど。
詰将棋解答選手権では5連覇継続中。
これは異常だ。
非公式のレーティング値でも首位に躍り出た。
末恐ろしい少年の姿をしている藤井聡太だが、今後どこまで強くなるのか。

木村一基王位

タイトル挑戦は多くとも獲得ならずでシルバーコレクターと称された木村一基九段。
豊島将之との王位戦&竜王戦挑戦者決定戦が並行して十番勝負を呈していた。
下馬評では若手筆頭で豊島強いよねの豊島相手では厳しいかとの見方。
結果は竜王戦挑戦者決定戦では敗れるものの王位をもぎ取った。
共にフルセットとなる死闘だったので、もぎ取ったという表現が正しいだろう。
中年の星とも呼ばれるその輝きは実に漫画的で、
将棋の強いおじさんに感極まった方も多いだろう。

Zen2で64コアが手軽に

かつてintelはCPU業界の先頭を走っていた。
AMDは歯牙にもかけない状態であったが10nmで停滞し、
AMDが抜き去って逆に周回遅れになりつつある。
なぜあのときAMD株を買っておかなかったのか……。

そんなAMDが満を持してRyzenの新コアとして出したのがZen2コア。
こいつはZenコアからコア数が2倍で、
かつAVX2でintelの半分しか出ない弱点を解消した。
前世代の4倍といっていいブーストをかけた。
さらにThreadripper(通称:スリッパ)ではハイエンドサーバーのコアをそのまま採用。
64コア128スレッドとコア数でもさらに倍プッシュと化物じみている。
intelのXeon2CPUマシン並のスペックが手軽に組めるようになったのだ。
AMDのサーバー向けEpycなら2CPU構成128コア256スレッドだ!

もちろんこのCPUパワーを最大限利用するには、
NUMA超え(64スレッド以上)に対応したアプリが必要だが……
やねうら王はXeonで40コア80スレッドマシンを利用するために対応済みだった。
ありがとうやねうら王

棋聖獲得

藤井七段が渡辺二冠に挑戦した棋聖戦。
コロナ禍で対局中止が続いたが、
屋敷伸之九段の最年少タイトル挑戦記録を塗り替えられる可能性を残すために
無理やり準決勝から決勝のスケジュールを過密でねじ込んだ。
とはいえ佐藤天彦、永瀬拓矢を中1日で撃破せねば達成されないので、
実際に勝ってしまうのが凄いところだが。

第一局
▲1三角成の一閃の踏み込みからの一気の寄せ。
光速の寄せを彷彿とさせる鮮やかさ。

第二局
△5四金とグイっと金を押し上げる構想から
意表の△3一銀の受けでいつの間にか優勢に。

第四局
飛車の取り合いの筋からの△8六桂の縛りで勝勢に。

渡辺明にして勝ち方が想像を超えていると言わしめる強さで棋聖位獲得となった。

王位獲得

王位リーグでも全勝し、永瀬拓矢との挑戦者決定戦を制して挑戦者となった。
棋聖戦もそうだが、トップ棋士ばかりが集う場にてこの成績は尋常ではない。
永瀬拓矢とて二冠を保持しているレーティング上位4強の存在なのだ。

木村王位との王位戦は終わってみれば4-0のストレート奪取になったが、
第二局など危うい場面はいくつかあった。
それをしのいでしまうところが持ってるというか実力なのだろう。

これで二冠。羽生善治の持つ最年少二冠の記録を大幅に更新した。
そもそも最年少二冠って何やねんとも思うが。
藤井二冠には今年度中に三冠やタイトル3期による九段昇段もある。
藤井聡太の将棋はまだまだこれからだ。